将来「司書」「図書館員」になりたいと思っていて、そのために大学へ進学しようと考えている場合、文学部に進むのが一般的だと考えられています。
なぜなら、「司書資格取得科目」がある大学は、文学部などの人文科学系にその科目を設置していることが多いからです。
しかし、よほど文学が好きとか、国語や歴史の教員免許も取りたいなどの明確な目的があるわけではなく、司書資格を取得し、新卒で正規の司書(自治体の職員や大学職員)になることだけを考えている人は、あえて他学部に進学するという道もあります。
詳しくみていきましょう。
「図書館」がなぜ文学なのか?
日本の大学で司書資格が取れるのは、文学部か人文学部が圧倒的に多いです。
それは、なぜなのでしょうか?
図書館の仕事の中で、文学の知識が必要となることはほとんどありませんが、そういうことがあるとしたら、少なくとも修士レベルの知識が必要となることが多く、学部だけで得た知識では足りないのでは?と思います。
また、違う例え方をすると、小学校に通う子どもたちに「図書館」を知ってもらう授業があるとしたら、それは国語ではなく、社会に該当するものだと思います。
大学で司書資格を取るために、それが文学部に該当するということは、読む・書く・聞く・話すといった日本語に関する技能や言語感覚の育成を目的にした国語の授業で図書館の使い方を教えるような違和感があります。
もっと簡単に言うと「本を扱っているから=文学」という短絡的なものを感じます。
そういう是非論を抜きにしても、文学部に司書過程が集中している以上、文学部出身の司書資格取得者がゴロゴロいるということは簡単に理解できると思います。
それは、いわゆる「レッドオーシャン」に飛び込むことになります。
図書館は「情報学」である
このサイトでも幾度となく書いていますが、
図書館にあるものは”本”ではなく、”情報”です。
情報を集め、保管・保存し、それを必要とする人に提供する場が図書館です。
司書にはさまざまな分野の仕事がありますが、基本的には図書館にあるそれら情報を扱うのが職務の中心となるはずです。
日本の大学で図書館学を牽引するのが筑波大学ですが、筑波大学は、情報学群の中に「知識情報・図書館学類」という専攻があります。
そして、文学や文化を学ぶ「人文・文化学群」は別にあります。
筑波大学の情報学群「知識情報・図書館学類」の教育目標は、このように書かれています。
インターネットや図書館のような知識共有の仕組みの企画・運営やそれを 支える情報システムについて教育し、知識・情報の流通と蓄積の仕組みを 適正に構築・管理するための経営的能力,技術力と情報の活用能力を育成 する。
文理をまたぐ広い領域の基礎理論や基盤技術の修得に力点を置き, 卒業後も自ら学ぶ力を備えた人材を養成する。
そして、その構成分野については
知識情報・図書館学類では、知識や情報の創造、選択、収集、蓄積、分析、評価、利用という一連のプロセスに関わるあらゆる機関、システム、活動、現象を教育・研究の対象とします。
知識科学、知識情報システム、情報資源経営という3つの主専攻のいずれかを選択します。
とあり、文学ではなく、情報を対象とした教育・研究を目的としていることがわかります。
他学部で司書資格を取得するという方法
外国の大学をみても、たとえばフランス語圏のある大学では「Information documentaire」(情報ドキュメンタリー)という学部が図書館学になっており、修了すると理学の学士を取得するようになっています。
このように、司書の専門的な知識を学びたいなら文学部でもいいと思いますが、知識と技術を学びたいなら、筑波大学以外の大学ではどんな技術が習得できるのか分かりにくいです。
そして、そのほかの方法として他学部で情報などの専門を学び、司書資格を取得するという方法があります。
例えば、千葉大学には、工学部に情報工学コースというものがあります。
情報工学コースでは専門知識として情報工学とその応用に関する知識を持ち、それを有効に社会に生かすための社会性、倫理観、国際的にも通用するコミュニケーション能力・プレゼンテーション能力を有し、これらを統合して問題を解決できるエンジニアリングデザイン能力を備えた技術者・研究者を育成します。
とあります。
そして、その専門知識を得るために、体系的に学べる科目が充実しています。
たとえば、情報・数学・物理の基礎科目から構成された
「情報数理」、「計算機・ネットワーク工学」、「ソフトウェア工学」、「知的情報科学」、「マルチメディア情報処理」
など。
また、それ以外にも情報にかかわる数理、コンピュータのハードウェア・ソフトウェア、セキュリティ、ネットワークからマルチメディア情報処理などの科目があります。
そして、社会性・倫理観、国際的コミュニケーション能力を身に付ける科目として、
「工学倫理」、「情報工学基礎英語」
などがあります。
さらに、実験および卒業研究でプレゼンテーション能力やデザイン能力を身に付けることを目的にしています。
教職の科目を履修することにより、高等学校1 種( 情報) の教職免許も取得できます。
そして、千葉大学の司書資格取得科目は文学部の中にありますが、それらは他学部の受講履修も「可」となっています。
または、司書資格科目がない大学で情報系の分野を学び、3、4年生になってから「司書講習」で司書資格を取得するという方法もあります。
正確な詳細情報は各大学にお問い合わせください。
まとめ
司書を目指す学生へ 文学部以外への進学をすすめる理由
日本の「司書」という専門性がどうあれ、専門職としての司書になりたいと思うなら、
- 文学部なら、「修士」まで持っていた方がいい
- 学部だけで司書の専門性をきちんと学びたいなら、おすすめする大学は今のところ筑波大学しかない
- いずれにしても、文学部出身の司書資格取得者はあまりに多く、レッドオーシャン
どんな仕事でもそうですが、本当に大切なことは現場で学びます。
司書も同じで、働くうちに知識が足りないと思うことがあれば、そのときに勉強すればいいのです。
今回の話はあくまで、とても狭き門である「正規の司書」として採用されるためのちょっとしたアドバイスだと思っていただけると幸いです。
また、大学職員の中途採用の図書館枠でも、工学部出身者や、IT系の技術のある人を希望していることが多いです。
工学やITに関わらず、レッドオーシャンに飛び込むには「レアな人材」になることを意識するのは大切ですね。
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