以前、「図書館学」から「図書館」を取り除くことをどう思いますか?という記事を書きました。
アメリカの図書館界では、図書館は広義では情報なので、情報学部にしようという動きが活発です。
日本においても、図書館情報学用語辞典(第4版)によると、
情報学(information science)とは、
「情報科学」(数理学的な情報理論を中核とし、コンピュータ技術と密接にかかわる領域)とは異なる。
と書かれており、「情報学」は、図書館学とドキュメンテーションを基盤として位置付けられていることがわかります。
しかし残念なことに、すべての大学でその認識が一致しているわけではなく、情報学と図書館情報学はいまだ乖離している印象です。
こちらの記事で、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の学生(当時)の発言としても紹介しましたが、
図書館分野の人なら、情報学=図書館学であることが分かるかもしれませんが、分野外の人は何らかのITの学位を取得していると思う可能性が高いです。
さらに言えば、日本の大学では実際に、情報学=何らかのIT技術の学位としている大学が多いのが現状です。
日本における大学の、情報学部と図書館情報学部をまとめてみました。
今日の記事では学部のみです。
情報学と図書館情報学が設置されている日本の大学一覧
「情報学」だと考えられるが、名称が異なるものはその名称を(かっこ)で書いています。
情報学部 | 図書館情報学部 | |
国立 | 静岡大学 | 左記の筑波大学は、情報学群の旧称が「図書館情報学群」で、現在は情報学群の中に「知識情報・図書館学類」が設置されている。 |
公立 | 高知工科大学 (情報学群)
長崎県立大学 |
|
私立
|
文教大学 | 慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻 |
図書館学と図書館情報学
図書を中心とした資料の収集、保存、利用を機能とする図書館の本質とその経営を対象とする図書館の学問を図書館学といいいますが、1970年代以降、図書館業務のコンピュータ化、情報処理の進展に伴い、図書館学は図書館情報学へと名称を変えていきます。
よって、図書館情報学は図書館学(library science)に、情報学(information science)という分野を加えた学問と言えます。
国内の大学でも、現在「図書館学」を学部に据える大学はありません。
しかし上記の表をみてもわかるように、図書館情報学においても、文学部や情報学部、社会学部のなかに専攻として図書館情報学科、図書館情報学専攻として課程として存在するに留まっています。
図書館情報学と情報学
一方、情報学は情報のあらゆる学問領域をカバーする学問です。
情報の獲得、表現、蓄積、流通、検索など、情報が発生し、収集・処理され、活用されるすべての過程における学問と定義されています。
コンピュータ、特にインターネットの出現により、情報の様相が変わり、だれでも大量の情報を獲得、表現、蓄積、流通できるようになりました。
これが「情報学」という学問分野が生まれた背景にあります。
アーカイブでありコレクション、社会の知識の宝庫であり、歴史にアクセスするために欠かせない役割を持つ図書館は、広義で情報学となることから「情報学」に含めて捉えられるようになっています。
図書館情報学用語辞典(第4版)によると、情報学(information science)とは、
学術情報に代表される情報流通過程を研究対象とし、特に情報の蓄積と流通、利用のためのメディア、およびこれを支援する社会組織を中心に扱う研究領域、図書館学とドキュメンテーションを基盤として、情報検索研究や科学コミュニケーション研究、情報探索行動研究などを合わせて、第二次大戦後に形成された、類縁領域として、ヨーロッパを中心とするインフォマティクス(informatics)がある。
日本でいう「情報科学」(数理学的な情報理論を中核とし、コンピュータ技術と密接にかかわる領域)とは異なる。
とあります。
日本の大学の情報学部と図書館情報学部
情報学部は文系でも理系でもなくどちらにも関わっているともいえますが、日本の大学(特に私大)においては、前述の「情報学」で異なると定義されている数理学的な情報理論を中核とし、コンピュータ技術と密接にかかわる領域としての分野と定めている大学が多く、図書館学の広義としての情報学が学べる大学はほとんどありません。
国立大学
静岡大学情報学部
静岡大学は、情報学部に情報科学科と情報社会学科、行動情報学科が置かれています。
工学部情報系学科から発展した工学系の情報科学科と文科系の情報社会学科の2学科でスタートし、2016年度から新たに行動情報学科が創設され、3学科体制となりました。
情報科学科、行動情報学科、情報社会学科の3学科は、それぞれ計算機科学、情報サービス、情報社会デザインという中心テーマを持ちながら互いに連携しており、文系・理系の双方を総合的に扱う学際色が強い印象ですが、起源が工学部にあることもあってか、文理融合よりも文工融合を掲げています。
図書館学の広義にあたる情報学を学ぶ場合は、行動情報学科を選択することになると思いますが、詳細はこちらのカリキュラムをご参照ください。
筑波大学情報学群
筑波大学は「情報学部」ではなく「情報学群」として設置されており、その下に「情報科学類」「情報メディア創成学類」、「知識情報・図書館学類」が設置されています。
旧称は「図書館情報学群」で、図書館情報大学を前身としています。
図書館学を学びたい場合は、「知識情報・図書館学類」を専攻することになると思います。(情報学群各学類の概要)
名古屋大学情報学部
名古屋大学は情報学部に、自然情報学科、人間・社会情報学科、コンピュータ科学科が設置されています。
情報学部は第八高等学校 (旧制)、教養部、情報文化学部、工学部電気電子・情報工学科(旧・情報工学科)の流れを汲む学部であり、情報文化学部を改組し、工学部情報工学コースを合流させる形で情報学部を設置しています。
図書館学を学びたい場合、どの学科を専攻するべきなのかがわかりにくいですが、自然情報学科はデータ分析、コンピュータ科学科は高度情報技術者を育成するとあることから、人間・社会情報学科を専攻することになると思います。
しかし、前述したとおり「情報学」と「図書館」が結びついていない印象も受けます。
公立大学
高知工科大学情報学群
高知工科大学情報学群は、「情報と人間」「情報とメディア」「情報通信」「コンピュータサイエンス」の4つの専攻(履修モデル)を設置しています。
前述の「情報学」と「図書館」が結びついていない典型的な例です。
「情報と人間」でさえ完全な理工学で図書館学と協力関係にありそうもありません。
長崎県立大学
長崎県立大学は、情報システム学部に情報システム学科、情報セキュリティ学科(国内初)を設置しています。
しかし、高知工科大学と同様、何らかのITのスペシャリストを養成する学科となっており、図書館学とは無縁の印象です。
私立大学
私立大学においては、ほとんどの大学が冒頭で記述した通り、「情報学」をコンピュータ技術と密接にかかわるIT領域と捉えている大学が多く、また、図書館学を文学部に設置しており、図書館学と情報学を関連づけていない大学がほとんどです。
大学で図書館情報学を学びたいのであれば、該当する大学はやはり「図書館情報学」の学部がある大学ということになります。
その中でも、図書館情報学部がある慶應義塾大学か、文学部ではなく、情報学部やメディア学部に図書館情報学を据えている中央大学、東洋大学、駿河台大学が「図書館情報学」の意義を理解し運営されていると考えられます。
コメントを残す