『三つ編み』 にみる図書館 図書館からはじまるシチリアの少女と移民青年の恋




トップ画像は、アルバート・アンカーの「髪を編む少女」Albert Anker (1831-1910) “Girl,Twisting Her Hair”(1881)

 

 

決して出会うことのない、それぞれ3つの大陸に生きる3人の女性、3とおりの人生。

彼女たちに共通するのは、自分の意志を貫いて生きる勇気です。

 

 

インドの不可触民(ダリット)のスミタは、娘を学校に通わせ、悲惨な生活から抜け出せるよう尽力するが、その願いは断ち切られます。

 

イタリアのシチリアで、家族経営の伝統的な毛髪加工会社で働く二十歳のジュリアは、父の事故をきっかけに会社の経営不振の現実も知るところとなり、人生の岐路に立たされます。

 

カナダのモントリオールで弁護士として活躍するシングルマザーのサラは乳がんになり、これまですべて順調だったことが崩れ落ちます。

 

 

地理的にも社会的にも大きくかけ離れた境遇にあり、面識のない3人の女性の人生は、それぞれの勇気ある選択によって、結末で、まさに三つ編みのように交差し結びついていきます。

 

フランス文学『三つ編み』 にみる図書館

 

図書館は、シチリアのジュリアの場面に登場します。

 

ジュリアは、同じ年頃の若者が熱心に通うカフェやディスコの喧騒より市立図書館(ビブリオテカ・コミュナーレ)の静寂が好き。

 

シチリア古来の伝統である家族経営の毛髪加工工場で働きながら、毎日昼休みに図書館に通っています。

 

飽くことを知らない読書家で、壁が本で覆われた大きな閲覧室の、ページをめくる音だけが空気を乱す静けさが好きだ。どこか宗教的で、ほとんど神秘的な内省の雰囲気がしっくりくる。本を読むと時間がたつのも忘れる。子供のころ、作業場の女たちの足もとに座って、エミリオ・サルガーリをむさぼり読んだ。その後、詩に出会った。ウンガレッティよりカプローニが好きで、モラヴィアの散文詩を好み、とりわけパヴェーゼは愛読書だ。本さえあれば一生、誰もいらないかもしれないと思う。食べるのを忘れることもある。昼休みからすきっ腹で戻ることも珍しくない。そんなわけで、人がカンノーリ(リコッタチーズや砂糖漬け果物の入った、シチリアの筒状菓子)をむさぼるように、ジュリアは本をむさぼる。

レティシア・コロンバニ著、齋藤可津子訳 2019.『三つ編み』(早川書房)本文より

 

ある日もまた、ジュリアが本を借りようと昼休みに図書館に行くと、ある男性と出会います。

 

何日か前の祭りの日、通りで憲兵隊に捕まっていたのを見かけ、強く惹かれていた男性です。

 

 

ジュリアは図書館内で彼のあとをつけ、声をかけます。

― お手伝いしましょうか?
― このコーナーはよく知っているんです。
― 探している本があるの?

 

「イタリア語は普通に話せるけど、読み書きがおぼつかなくて上達したい」という彼に、イタリア文学の棚を案内し、現代文学はとっつきにくいかもしれないと考え、自身が子供のころによく読んだサルガーリの小説を薦めます。

 

お気に入りの『空の息子たち。(イ・フィリ・デラリア)』。

 

 

男性の名前はカマルという。

 

 

やがて、カマルとジュリアは毎日のように、昼休みに図書館で落ち合うのが習慣となります。

 

そして、カマルとの出会いが、この後ジュリアの人生を大きく変えることになるのです。

 

『三つ編み』 感想

 

まったく異なる場所にいる女性の人生が知らず知らずのうちに結び付き、やがて三つ編みのように交差します。

 

女性3人の人生を、女性にとって大切な髪の毛にたとえ、「三つ編み」のように交差していく展開も、終わり方もとても素晴らしい物語です。

 

 

全編をとおして図書館は決して重要な役割として登場するわけではないのですが、シチリア編の主人公ジュリアという人物を表すために、なくてはならないものとして描かれます。

 

「同じ年頃の若者が熱心に通うカフェやディスコの喧騒より市立図書館(ビブリオテカ・コミュナーレ)の静寂が好き」

 

というのも、図書館好きの人なら思わず「そうそう!」と共感できるのではないかなぁと思いました。

 

2019年は『82年生まれ、キム・ジヨン』(2018年12月刊行)と並んで、女性の生き方とその背景にあるその国の根深い文化を描いた作品がヒットした印象です。

過剰広告によるものかなとも思いましたが、実際にフランス語圏の知り合いに読んでいる人がたくさんいました。

 

とてもやさしく温かい文章で書かれていて、小学校高学年くらいから読めるのではないかと思います。

 

図書館がでてくる小説のアーカイブ

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