文学的な旅を求めるなら、ロンドンはその期待に十分応えてくれる街でしょう。
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ロンドンに飛び立つ前に、実際にそこで生み出された文学で予習しておけば、もっと充実した旅を実現できると思います。
今日は、「ロンドンを訪れる前に読んでおきたい小説10選」をレファレンスします。
最後の1選は小説ではなくノンフィクションになってしまいましたが、ご了承ください。
もし、ここにあげたもの以外におすすめがあれば、是非コメントしてくださいね^^
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ロンドンと文学と旅
エレガントな高級タウンハウスからコンクリートの郊外の団地、緑豊かで広大な公園が豊富にあるロンドンの多様な景観は、それに比例するように多様な文学を生み出しています。
短期間のイベントである「旅行」は、訪れる街のいい部分をみることに務めるのが通常ですが、どんな場所も、そこで生活しているひとたちがいて、そこにはその場所のリアリティ「生」があります。
今日紹介する10の物語は、さまざまな世紀、ジャンル、自治区にまたがっており、イギリスの首都での生活がどのように生きているかをパノラマで示しています。
これらの物語を事前に読んでロンドンを訪れると、よりその場所を感じられるのではないかと思います。
ロンドンを訪れる前に読んでおきたい小説10選
チャールズ・ディケンズ「オリバー・ツイスト」
こちらの記事(愛読家と図書館愛好家のためのロンドンガイド【パブ編】)で、ロンドンのいろんなパブに通っていたことがわかったチャールズ・ディケンズ。
「クリスマス・キャロル」、「デイヴィッド・カッパーフィールド」、「荒涼館(Bleak House)」など、ディケンズは多くの舞台をロンドンに設定しました。
いずれも18世紀におけるロンドンの非ロマンチックな現実ですが、「オリバー・ツイスト」ほどそれが顕著な物語はありません。
一度この物語に入れば、主人公のオリバー・ツイストを通じて、ドジャー、フェイギン、ナンシー、ビル・サイクスなど印象的なキャラクターに囲まれ、孤児の視点から見たビクトリア朝のロンドンの犯罪に満ちた地下世界への魅惑的な旅をすることになるでしょう。
ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」
ヴァージニア・ウルフは、20世紀モダニズム文学の主要な作家の一人で、「女性が小説を書こうとするなら、お金と自分だけの部屋を持たなければならない」という主張を残した女性作家です。
「ダロウェイ夫人」は1925年の出版時点で、伝統的な口承文学の手法を打ち破りました。
ロンドンの上流社会の活動にせっせと勤しむクラリッサ・ダロウェイの人生の、たった1日を登場人物たちの意識の流れを丹念に追う事で長い物語として描かれます。
断片化された内なるモノローグを通して、様々な人間模様や人生がわかってきます。
ウェストミンスターの高級通りを舞台にした「ダロウェイ夫人」は、ロンドンで最も重要なモダニズム小説のひとつです。
ハニフ・クレイシ「郊外のブッダ」
インド人の父とイギリス人の母を持つハニフ・クレイシによる、1990年にイギリスで発売された小説「郊外のブッダ」は、いまだに何度読んでも奇妙なおもしろさのある物語です。
南ロンドンのコスモポリタンなコミュニティで育った主人公カリムは、自分自身を「生まれ育ったほとんど英国人」と妙な表現し、彼の外国の祖先のために感じた移動の感覚を捉えています。
率直で、驚くほど暗くておかしい「郊外のブッダ」は、英国のアイデンティティの複雑さに心を奪われる魅惑的な旅です。
グレアム・スウィフト「最後の注文」
1996年のブッカー賞を受賞したグレアム・スウィフトの小説「ラストオーダー」は、典型的なロンドンの物語です。
友人のジャック・ドッズの灰をばらまくためにマーゲートに旅立つ退役軍人のグループを中心に、おもに口語のスラングで語られた物語です。
ウィリアム・フォークナーの「死ぬほど眠る」の影響を強く受けたスウィフトは、この平凡な物語に魅力的な特殊性を注ぎ込みました。
2018年、日本で訳書が発売されたスウィフトの「マザリング・サンデー」では、イギリスの階級社会を丹念に描き、こちらはロンドンを訪れる前というよりもロンドンに持って行きたいおすすめです。
アラン・ホリングハースト「ライン・オブ・ビューティ 愛と欲望の境界線」
1980年代にブッカー賞を受賞した小説「The Line of Beauty」は、まさにロンドンの日常。
サッチャー派の政治とロンドンのゲイ文化の輪にまたがるこの物語で、その2つの世界に巻き込まれた素朴な20歳のニック・ゲストの日々を追います。
ホリングハーストの特徴的な散文で語られた「The Line of Beauty」は、ロンドンの街のみならず、その時代を定義する小説です。
小説は未邦訳ですが、2006年にイギリスのBBCが全3話でテレビドラマ化し、日本ではWOWOWで放送されました。
沢木耕太郎「深夜特急6-南ヨーロッパ・ロンドン-」
香港からはじまる沢木耕太郎の人気シリーズ「深夜特急」の最終舞台がロンドンです。
これまで紹介した小説でみられるのはロンドン社会のリアリティですが、この小説では、日本人旅行者の視点で描かれるので、わたしたち日本人にとってはより旅への興奮が掻き立てられるかもしれません。
それでも旅の本当の醍醐味は観光名所などではなく、現地の人との些細な交流や予期せぬハプニングによって知ることができる、その土地ならではの文化なのかもしれないと思わされます。
ヘニング・マンケル「北京から来た男」
タイトルを見て誤りだと思いましたか?
この小説では、もちろん北京への旅も体験できますが、スウェーデンからはじまる奇妙なミステリーの最終決着地点がロンドンです。
国から国へ、現在から過去へ、主人公のビルギッタを通じて恐ろしい秘密を孕んだ不穏な旅へ連れて行かれます。
ヘレン・フィールディング「ブリジット・ジョーンズの日記」
世紀を超えた小説やミステリーが苦手、特にカラッとした恋愛ものが読みたい人におすすめなのが「ブリジット・ジョーンズの日記」です。
映画が大ヒットしたことはご存知ですよね。
そう、ブリジッドが日記に書き綴った日常は、ロンドンにあります。
主人公は、ロンドンの出版社で働く独身30代の女性。
したがって、働く女性の視点から見たロンドンの壮観な都市を感じられます。
ブレイディみかこ「子どもたちの階級闘争」
すみません!確かに「ロンドンを訪れる前に読んでおきたい小説」を10選レファレンスしたことは誓います。
しかし、邦訳されていない小説があり10選に満たなかったので、最後にこちらを紹介させてください。
今年(2019年)「ぼくイエ」で第2回 Yahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞を受賞した著者によるイギリスはブライトンの貧困地区の現実を描いた作品です。
ロンドンでもなければ小説でもないのですが、日本人から見たイギリスの「生」を感じられる1冊です。
フィクションが苦手な方は、こちらのノンフィクションでロンドン(とその界隈)を知るのはどうでしょうか。
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